小さい会社と社長の失踪

小さい会社は社長のものである。

どんなに変てこりんでも、 
自分で作った会社なんだから、
その社長の好きな様にすればいいんだ。

その為に社長になったんだから。

私達は、良ければ勤める、嫌なら辞める、
それだけ。

それでいいんだけどね。
いいんだけども。

ある時、勤めた会社で、
社長が愛人と失踪してしまった。

それはかなり困る。
存続の危機だし、いい加減すぎる。


社長が愛人と失踪したのは、
一緒に仕事をした職人さんと社長と私で
仕事終わりに飲みに行った日だった。

社長の彼女が仕事を依頼してくれたので、
彼女も一緒だった。

すると社長が、
「決めた。もう俺は帰らない。俺は彼女と生きる」
と言い出した。


えー
そんな事決められても困る。


職人さんが帰るように説得していたが、
社長の決意がやたら固く、

遂に2人で、
本当に文字通り、夜の街へ消えていった。


翌朝、職人さんが心配して会社に来ていた。

社長の奥さんが怒っていた。

私にも、
「なんで連れて帰ってくれなかったの!」
とものすごく怒ってきた。



そんな事言われても。

一応頑張って説得したし。

目の前で社長に失踪された、社員の身にもなって欲しい。


職人さんが、
連れて帰るのがいかに無理だったかを説明し、
私に怒るのは間違いだと言ってくれた。


その日からは、

お客さんから
「社長といつ連絡が取れるか」
と聞かれる度に、
「私達だって知りたいよ」と思いながら
何とか誤魔化し、

誤魔化しきれずに叱られ、

副社長の奥さんは、全く役に立たず、
(そりゃそうなるだろうけども)

みんなして、この会社はどうなるのか?
と心配しながら仕事をしていた。


3日後に社長は帰って来た。

案外早い。

結局このせいで、他の社員は辞めてしまった。

私は
「またやったら辞める」と言い、
またやったので辞めた。

楽しかったんだけどなぁ。

その後、それを知った建設会社の人が、
「頑張っていたのに、そりゃ可哀相だ」
と、自分の会社に紹介してくれた。

そこではもっと面白い仕事が出来たので、
辞めて良かったし、
結果良ければ、全て良しである。